中国人学者が考察、アンチヒロイズム時代を席巻した「クレヨンしんちゃん」。

2009/09/30 09:20 Written by Narinari.com編集部

このエントリーをはてなブックマークに追加


「クレヨンしんちゃん」の作者、臼井儀人さんの事故が報じられてはや2週間が過ぎた。いまだに多くのファンや関係者から臼井さんを悼む声が届いている状況からも、改めて「偉大なマンガ家を失った」ことを思い知らされる限りだが、日本と同様に、中国でも臼井さんの死に心を痛めている人は多い。そうした中、ある中国人文化学者の考察「クレヨンしんちゃん」論が中国紙「東方早報」に掲載された。

「史上“最も恥知らず”な子どもが去りました」という一文で始まるコラムのタイトルは「クレヨンしんちゃん、ヒーローとアンチヒーロー」。この文化学者は、「クレヨンしんちゃん」が母国の日本だけでなく、韓国、台湾、香港、そして中国本土で爆発的な人気を誇っていることに触れ、「どうしてこれほどまでに人気を集めたのか」について考察している。

文化学者はまず、しんちゃんのスケベな性格と自由奔放な振る舞いに注目。「現実の大人たちが日常生活で決して許されない言葉や行為を、しんちゃんが肩代わりしてくれることで、都市部で暮らす成人男女の鬱屈した気持ちを解放してくれた」(東方早報より)と論じている。そして、「クレヨンしんちゃん」は、ストレス社会に苦しむ大人たちがしばしば抱く「子ども時代に戻りたい」という願望を叶えてくれるような作品なのだという。

また、文化学者は「クレヨンしんちゃん」と「鉄腕アトム」を比較し、「鉄腕アトム」はヒロイズム作品、「クレヨンしんちゃん」はアンチヒロイズム作品と分析。「クレヨンしんちゃん」が中国でも広く行き渡った1990年代は、中国で周星馳(チャウ・シンチー)のコメディ映画が流行したように、アンチヒロイズム的な作品が一世を風靡していた。主人公は強くない代わりにジョークがうまく、大抵スケベで、より大衆的。かつては「鉄腕アトム」のように「悪を倒し、困難に打ち克つ」ようなテーマを掲げたヒロイズム作品が中心だったが、「平和な時期が長引くにつれ、舞台はより大衆的な作品へと移り変わっていった」(同)としている。

そして「クレヨンしんちゃん」は、正義と非正義の境界が曖昧になった複雑化した社会の中で、「正義と非正義の間にある些細な事柄、豊かな感情をつづってくれた作品」だと考えているようだ。

「クレヨンしんちゃん」は中国での認知度が高くなるにつれ、子を持つ親たちから「教育に悪い」としてバッシングを受けた時期もあった。それは中国でも国民的な人気を博している「ドラえもん」や「ちびまる子ちゃん」とは明らかに異なる反応だったが、こうして生みの親である臼井さんが世を去ったいま、この考察のように、冷静な分析を試みる動きが出るようになったこともまた事実だ。文化学者は最後に「臼井さんは亡くなられたが、しんちゃんは絶対にいなくならない。なぜなら、私たちそのものがしんちゃんのような存在なのだから」(同)と考察を締めくくっている。

TOPへ戻る
このエントリーをはてなブックマークに追加

Copyright © Narinari.com. All rights reserved.