先日、米国で下された1件の判決が注目を集めた。個人ブログで写真や文章によって中傷されたモデルが、ブログ運営者の身元情報開示を求めて開設元のGoogleを訴え、8月17日にニューヨーク州最高裁判所が開示を命じた――という判決だ。これを受け、モデル側はすぐにブログ運営者を特定。連絡を取って話し合いが行われたが、そうした中、今度は情報を開示されたブログ運営者の女性が「自分の身元を保護する義務を怠った」として、Googleを相手取り1,500万ドル(約14億円)を求める裁判を準備。「自分だけでなく、ほかのブロガーのためにも」と、その鼻息は荒い。
中傷の被害者は、ジョルジオ・アルマーニやヴェルサーチのモデルのほか、ファッション誌「Vogue」オーストラリア版で表紙を飾ったこともある36歳のカナダ人モデル、リスクラ・コーエンさん。米放送局CNNなどの報道によると、2008年8月にGoogleのブログサービス「Blogger」に、コーエンさんを攻撃する内容の個人ブログ「Skanks in NYC」が開設され、その中で酒席で撮られたコーエンさんの写真や、「売春婦」「醜い」「尻軽女」「年を取ったババア」などの中傷の言葉がつづられていた。これを知ったコーエンさんはGoogleに対し、ブログ運営者の情報を明かすよう求めたものの、Googleの返答は「NO」。結果、裁判を起こして情報開示を迫ることになった。
裁判ではコーエンさんの要求通り、Googleに身元情報開示の命令が下され、Googleはブログ運営者の接続IPアドレスとメールアドレスをコーエンさんに提供。それをもとにコーエンさんの弁護士が調査を進め、ブログを運営していたのは29歳の女性、ローズマリー・ポートさんと判明した。問題のブログは判決が下されたのと時を同じくして、削除されたという。
コーエンさんはポートさんへメールを送って携帯電話の番号を知り、すぐに連絡。これまでの中傷を謝罪したため、コーエンさんは許したとされるが、一方で米紙ニューヨーク・タイムズは「ブログに掲載された写真などが今後の仕事に支障をきたす恐れもある」として、コーエンさん側が名誉棄損で300万ドル(約2億8,000万円)の民事訴訟を起こしたと伝えている(※ただし、訴えは取り下げる意向との情報もある)。
しかし、事はこれでは終わらない。中傷をしていたポートさんも、新たな行動に出た。ポートさんの弁護士がGoogleを相手取り「6週間以内に損害賠償を請求する」(米紙USAトゥデーより)予定であることを明かし、ポートさんもメディアの取材に対し「私がブログをできないようにするための、公開サーカスになった」(英紙デイリー・メールより)と主張。自分の身元を明かされただけでなく、ブログを運営する機会も失われ、2つの意味で「私のプライバシーの権利が侵害された」と持論を展開している。
また、この訴えは「ほかのブロガーの権利も保護するもの」と話し、「たとえ人々が私を攻撃するウェブサイトを開設しても、誰もが匿名で自分の意見を伝える権利を持つ」との思いから、Googleに1,500万ドル(約14億円)の損害賠償を求めるという。
Googleは被害を受けていたコーエンさん勝訴の判決後、「ネット上で攻撃された被害者には同情するが、同時にプライバシーに関する面にも配慮している」とコメント。また、「我々は裁判所命令や召喚令状など、有効な法的手続きに対応する」(CNNより)と、運営面に問題はないとしている。CNNの法律アナリストであるジェフリー・トゥービン氏も、Googleが裁判所の命令に従って情報を開示した点や、開示によるポートさんの権利侵害が見られないと解説。「ポートさんの訴えでは勝てそうもない」と見ているようだ。
また、コーエンさんの弁護士も「ポートさんが犠牲者なんて、まったく理解できない」と話すなど、ポートさんの勝ち目は薄いとの認識が支配的。こうした成り行きはとても米国的と言えるが、ポートさんの行動はまだしばらく注目を集めることになりそうだ。