水泳と陸上短距離に「体重別」導入を提唱、両競技は体格の影響大きい?

2009/07/20 20:25 Written by Narinari.com編集部

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昨年開催された北京五輪で、本番前から世界中の大きな期待を集めたのが、陸上短距離のウサイン・ボルト選手(ジャマイカ)と水泳のマイケル・フェルプス選手(米国)。ボルト選手は、その圧倒的なスピードで100メートル走、200メートル走、400メートルリレーでいずれも世界記録を樹立して優勝し、100メートル走ではゴール前からスタンドの観客にアピールする余裕を見せた。一方のフェルプス選手も世界新記録を連発して五輪史上初の8冠を達成し、水泳界の第一人者にのぼり詰めている。しかし、この2競技の現状を「レースの公平性を欠いている」と米国人研究者が主張。研究者は過去100年間に世界記録を樹立した選手について調べ上げ、水泳と陸上短距離競技を体重別で競うべきとした論文を発表した。

論文は、米デューク大のエイドリアン・べジャン博士らが英専門誌「ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・バイオロジー」に発表したもの。べジャン博士らは、1900年以降に水泳の100メートル自由形と、陸上100メートル走で世界記録を樹立した選手たちの身長と体重を調査、比較した。その結果、過去の選手たちに比べ、現在のトップアスリートの体格は著しく大きくなっており、体格変化の速度も一般人に比べて急速だという。

英紙デイリー・メールでは、100メートル走の選手を具体例に身長の変化を紹介。それによると、1930年に世界記録を出したカナダのパーシー・ウィリアムズ選手は約168センチで、1980年代に活躍したカール・ルイス選手(米国)とベン・ジョンソン選手(カナダ)が約188センチ、現役のアサファ・パウエル選手(ジャマイカ)が約190センチ、ボルト選手は約196センチに達している。英紙デイリー・テレグラフでは、1929年に新記録を樹立したエディ・トーラン選手(米国)が体重約66キロ(身長約170センチ)だったのに対し、ボルト選手は体重約86キロと紹介した。

この歴代記録保持者の調査から、ベジャン博士らは「これらの競技のスピード記録は、より体重が重く、より身長が高いアスリートによって支配され続けている」ことを裏付けていると分析。また水泳選手の場合でも、過去と現在の選手を比べて身長が約11.4センチ伸びており、この100年間の一般人平均4.8センチに対して伸び幅が大きいと指摘した。水泳では、体格が大きいと着水点をより前方にできるほか、着水時に起こす波によって前方への推進力をより得られるとも説明している。

ベジャン博士らは、両競技で体格が大きい選手が有利な状況をかんがみて「重量挙げやボクシング、レスリングなどのように体重別を適用するべき」と主張。五輪当局に対して導入の検討を提案したという。また、同博士らは「超人を作るための産業が生み出されるのは危険だ」との懸念も示している。

英紙ガーディアンでは、ベジャン博士らの論文を伝えつつ、英国短距離競技コーチのマイケル・アフィラカ氏による反対意見も紹介。同氏は「アスリートの体重が重くなってきているのは、社会的な生活環境の変化によるもの」とベジャン博士らとは異なる見解を示し、1990年代の女子短距離界では「ほとんどの選手がひょろっとした180センチ近い体格の中、1992年と1996年(の五輪)に優勝したゲイル・ディバースは約160センチだった」としている。同氏によると、アスリートに必要なのは体格ではなくエネルギーだという。

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