解体中の美術館から80年前の手紙発見、当時の生活を知る貴重な資料に。

2009/06/29 13:40 Written by Narinari.com編集部

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建築の際、施工者や工事に携わった人が、記念に天井、壁、柱などに名前や手形を残すことがよくあるが、米ボストン美術館では、80年以上前に行った改築工事の際に埋め込んだ手紙が発見された。改築工事の現場監督が書いたもので、当時の生活を知る貴重な資料として注目を浴びている。

1876年に開館したボストン美術館は、米国内でも5指に入るほどの多彩なコレクションで有名。浮世絵や仏画などの日本の美術品も多数所蔵し、館内には、20世紀初頭に在職していた岡倉天心にちなんで名付けられた日本庭園「天心園」が設けられている。現在は新館の増築工事の真っ最中だ。

そんな増築工事中の今年6月4日、建設作業員のリック・ブレンドミュールさんが壁の取り壊しを行っていたところ、レンガから飛び出している一通の封筒を発見した。封筒には「注意して開けて」と書かれていたため、ブレンドミュールさんは先走って埋蔵金の場所を示すものではないかと喜んだという。しかし、中に入っていた手紙は、タイプライターで作業員の名前や労働時間、賃金などを記したものだった。

ボストン美術館は1926年に改築工事を行っているが、手紙の日付はその年の7月21日。「トーマス・フォーチュン・クローリー」の署名が入っており、興味を持った美術館関係者のモーリーン・メルトンさんは、歴史関係者らとともに手紙とクローリー氏について探り始めた。

その結果、クローリー氏は当時の改築工事で現場監督を務めた人物と判明。署名にあった「トーマス・フォーチュン・クローリー」の名前を求めて、歴史博物館や役所など書類を探したメルトンさんだが、見つけ出す作業にはかなりの困難が伴った。というのも、実はクローリー氏の本当のミドルネームは「フォーチュン」ではなく、「フランシス」だったのだ。メルトンさんは「(クローリー氏は)当時実業家として有名で、慈善活動も積極的に行っていたトーマス・フォーチュン・ライアン氏のミドルネームから拝借し、手紙に記載したのではないか」と推測している。

そして先日、米海軍公文書課の助けでクローリー氏の情報を発見。メルトンさんは手紙を書いた人物の正体を突き止め、その生い立ちまで知ることができた。1894年にボストンで生まれたクローリー氏は、自動車整備士の仕事など経て、建設会社の現場監督の仕事に従事。ボストン美術館の工事に参加した直後にこの仕事を辞め、米海軍に入隊し、1979年にフロリダ州で生涯を終えている。

手紙には、当日、ボストンで華氏95度(摂氏35度)を記録し、「今年最も暑い日」とも記されている。しかし、米ケーブルテレビ局NECNによると、その翌日に現在でもボストン史上2番目の記録となる華氏103度(約摂氏39.4度)を記録したという。

また、ある労働者の賃金は時給74セントと記されており、同局は「現在の価値で約9ドル(約860円)ほど」としている。メルトンさんは「クローリー氏は労働者の賃金がどれくらいか教えてくれた」と、当時の状況を教えてくれる貴重な資料を発見したことに、興奮を隠せない様子だ。

米ABC系列局WCVBに対して、メルトンさんは「私の仕事は記憶をさかのぼって、彼を現代に引っ張ってくること」とコメント。そして手紙を発見したブレンドミュールさんは「われわれもここに何かを埋めようと思う」と語っている。過去からの手紙は、現代の労働者にも活力を与えているようだ。

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