第81回アカデミー賞で最多8部門を受賞した映画「スラムドッグ$ミリオネア」。インドのスラム街を舞台にした作品で、主要キャストの子供時代を演じた子役は実際にムンバイのスラム街で生活する子供たちばかりだ。生まれて初めて飛行機に乗って授賞式に出席した子役たちは大興奮だったようで、オスカー像を手にして瞳を輝かせる姿は多くの人々の感動を呼んだ。
子役たちは授賞式翌日にカリフォルニアのディズニーランドに招待されたが、アカデミー賞8冠のご褒美はこれだけでなく、ダニー・ボイル監督らから子役2人に新しいアパートをプレゼントされることとなった。
フリーダ・ピント演じるヒロイン、ラティカの幼少時代を担当した8歳のルビーナ・アリちゃんと、マドゥル・ミッタル演じるサリームの幼少時代を担当した10歳のアズハルディン・モハメド・イスマイルくんは、「スラムドッグ〜」に出演した子役の中でも貧困な家庭に生まれた。
ルビーナちゃんは事故で足を骨折した父らとともに下水が流れ込む家で暮らしており、アズハルディンくんは1枚のシートをかけただけの小屋で、片目を失った母や結核に悩まされる父と生活している。それぞれの家庭の生活費は1日1ポンド(約140円)にも満たず、華やかな授賞式に出席した後、2人は現実の世界に戻らなければならなかった。
こうした中で、ボイル監督とプロデューサーのクリスチャン・コルソン氏は、アズハルディンくんの家がすぐにも政府から撤去されると聞き、急いでムンバイに送金した。しかし、新しい家を探すためアズハルディンくんの家族が受け取ったお金をブローカーに渡したところ、このブローカーは持ち逃げしたという。そのため、お金よりもアパートを用意したほうが得策と考え、ムンバイ住宅協会と協力して2万ポンド(約280万円)相当のアパートをプレゼントすることになった。
2人の実生活が世界に報道されると、映画がすでに世界で100億円近くの興行収入を得ていることからも、「スカウトした子供たちを低賃金で使い、搾取した」との抗議が多数寄せられた。しかし、映画会社は2人を含む数人の子役たちに対し、成人までの生活費、学費、医療費の全額負担を契約しており、さらに成人後に改めて多額の出演料を支払うことを約束している。また今回、通学のためのリクシャー(人力車)費を負担することも発表した。
ムンバイのスラム街とストリートチルドレンのための基金設立も準備中だというボイル監督は、英紙デイリー・メールに対し「現金ではスラム街が抱える問題を解決しない。重要なのは長期的に投資することと、彼らが学校に通い続けているのを確認することだ」「私たちは、子供たちに富より多くのもの、人生の中で自身を元気づけるような技術を身につけてもらいたい」と語っている。