多言語を話す人にとっては、たぶん理解しやすい現象だと思うのですが、例えばひとつの言語で表現しにくいコンセプトでも、他の言語ではスラスラと話せるということがあります。これはその人の言語能力の違いよるものではなく、もっと言葉自体が持つ特色や表現力の深さが関係しているそうです。
簡単で有名な例をあげるとすれば、エスキモーが話すイヌイット語には、「雪」を表現する言葉がものすごく沢山あるという話。雪に囲まれた生活や、その言語に慣れ親しんでいるエスキモーでなければ、「今日の雪はこんな雪で、昨日の雪とはどう違う」といった会話が成立しない、というわけです。
さて、そうした語彙だけに限らず、それぞれの言語には、それを話す人々の思考を形付ける性質がある……という仮説があるそうです。これは
「言語的相対論」と呼ばれ、例えば感情を表現する言い回しが豊かな言語を話す人は、そうでない別の言語を話す人に比べて、物事をもっと情熱的に捉える、といった具合。
そして、この定義を裏付ける研究結果が、米研究グループによって発表されました。ニューヨーク市立大学バルーク校と、ウィスコンシン大学ミルウォーキー校の共同グループが、英語とスペイン語のバイリンガルであるヒスパニック系女性を対象に行った調査によると、彼女たちは英語を話す時よりもスペイン語を話す時のほうが自身を積極的に主張できると答えたそうで、この変化は英語圏とスペイン語圏の両方の文化に適応している人々の間で特に強いのだとか。
また被験者たちに、英語とスペイン語でそれぞれ書かれた広告を見せたところ、その広告画像に対する印象も言語によって異なっており、バイリンガルは言語によって認識さえも変えていることが判りました。
これらの変化はほとんどが無意識に行われている可能性が強いため、今後は、その影響力の度合いなどが研究課題になりそうです。