「東京タワー」5冠で深まる疑惑、日本アカデミー賞は“日テレ賞”?

2008/02/19 23:47 Written by コジマ

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米国のアカデミー賞を目前に控えた2月16日、日本の賞レースの最後を締めくくる第31回日本アカデミー賞の最優秀賞が発表された。日本映画界の活性化のために1978年に創設された同賞、かつては故・黒澤明監督と映画「影武者」の俳優・スタッフに辞退されるなど権威の面で軽く見られていたのだけど、技術部門を備えているほか映画関係者によって選ばれること、授賞式が中継されることなどで近年は注目度が高まっているのだ。

その日本アカデミー賞で以前から問題視されていたのが、大手映画会社の製作・配給作品が有利になるという点。実際に賞を選考する日本アカデミー賞協会は東映、東宝、松竹、角川映画が多数を占めており、その他の映画会社が手がけた作品は圧倒的な不利をこうむっているとされていた。

しかし、昨年の第30回授賞式では、インディペンデント系であるシネカノン製作・配給の「フラガール」が最優秀作品賞を受賞。これによって、同賞が「健全になった」と喜ぶ映画ファンも少なくなかった。

ところが今年、これまでの賞レースでほとんど名前の挙がらなかった「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」が最優秀作品賞を含む5冠を達成し、多くの映画ファンをあぜんとさせたのだ。

今年度各映画賞のおもな結果を見てみると、

◇報知映画賞
作品賞: 「それでもボクはやってない」
監督賞: 山下敦弘(「天然コケッコー」「松ヶ根乱射事件」)
主演男優賞: 加瀬亮(「それでもボクはやってない」)
主演女優賞: 麻生久美子(「夕凪の街 桜の国」)

◇日刊スポーツ映画賞
作品賞: 「それでもボクはやってない」
監督賞: 周防正行(「それでもボクはやってない」)
主演男優賞: 木村拓哉(「武士の一分」)
主演女優賞: 竹内結子(「サイドカーに犬」)

◇ヨコハマ映画祭
作品賞: 「それでもボクはやってない」
監督賞: 周防正行(「それでもボクはやってない」)
主演男優賞: 加瀬亮(「それでもボクはやってない」)
主演女優賞: 佐藤江梨子(「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」)

◇キネマ旬報ベスト・テン
作品賞: 「それでもボクはやってない」
監督賞: 周防正行(「それでもボクはやってない」)
主演男優賞: 加瀬亮(「それでもボクはやってない」)
主演女優賞: 竹内結子(「サイドカーに犬」ほか)

◇毎日映画コンクール
作品賞: 「それでもボクはやってない」
監督賞: 周防正行(「それでもボクはやってない」)
主演男優賞: 国分太一(「しゃべれどもしゃべれども」)
主演女優賞: 麻生久美子(「夕凪の街 桜の国」)

◇ブルーリボン賞
作品賞: 「キサラギ」
監督賞: 周防正行(「それでもボクはやってない」)
主演男優賞: 加瀬亮(「それでもボクはやってない」)
主演女優賞: 麻生久美子(「夕凪の街 桜の国」)

「それでもボクは〜」が圧倒的で、「東京タワー〜」が獲得したのは東京スポーツ映画大賞の主演男優賞(オダギリジョー)と日刊スポーツ映画賞の助演女優賞(樹木希林)のみ。そんな「東京タワー〜」が5部門制覇したことに対して、ネットからは「けっしてダメな映画ではないが、納得できない」などの声が上がっており、「ALWAYS 続・三丁目の夕日」の吉岡秀隆が主演男優賞を受賞したことについても批判が飛び交っている。「それでもボクは〜」「ALWAYS〜」「眉山 −びざん−」が東宝配給だったことから、夕刊フジでは「優秀作品賞に東宝は3作品も選ばれたため票が割れ、松竹配給の『東京タワー−』が漁夫の利を得たともいえる」(夕刊フジより)としている。

これとは別にネットで批判されているのが、「東京タワー〜」に授賞式の中継を担当していた日本テレビが製作にかかわっていたこと。「ALWAYS〜」も日本テレビ製作なことから、「日テレ関連の作品が選ばれた。フジテレビが製作した『それボク』が受賞できるわけない」「日テレ映画大賞にしろ!」という意見もチラホラ。「東京タワー〜」も「ALWAYS〜」もよい映画なだけに、余計な“栄冠”が逆に作品をおとしめると感じた人が多かったみたい。

また、授賞式でも最優秀脚本賞を受賞した松尾スズキが苦笑いしたかと思えば、最優秀主演女優賞に選ばれた樹木希林は、最優秀助演男優賞を受賞した小林薫に「組織賞、組織賞」とささやき、「私が審査員なら違う作品を選んでいました」とコメント。受賞者も困惑していたようなのだ。これについて、お笑いコンビ、ダイノジの大谷ノブ彦は、自身のブログ「不良芸人日記」2月16日のエントリーで「こんだけあからさまにやるとは・・・ 逆に面白い!」「東スポ映画賞のほうがある意味純粋?」「是非フジテレビでも『ジャパンアカデミー賞』やって『HERO』か『西遊記』が総なめといきましょう!」と記している。

21年ぶりに邦画興行収入が洋画を上回った2006年に比べ、邦画がガクンと落ち込んだ昨年の日本映画界。その低下は前年比12.3%にも及び、洋画の奮闘にもかかわらず、全体興収でも前年比2.2%減となってしまった。誰もが「あからさま」と指摘している今回の日本アカデミー賞の結果は、賞創設の目的である「日本映画の活性化」どころか、衰退につながりかねないのだ。夕刊フジは「『ひとつのテレビ局に賞を決める力はない』というのが映画業界の共通した見方だ」としているのだけど……。

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