米国最大の音楽賞であるグラミー賞も、今年で50回目。初開催の1958年から半世紀が経過したことに、関係者の感慨もひとしおだったのではないだろうか。しかし、今年の授賞式は米脚本家組合のストライキによって開催の危機を迎えていて、脚本家組合と主催者が合意したのは1月28日のこと。2週間前というギリギリの段階で、なんとか例年通りの開催にこぎつけたのだ。
今年の最多部門候補者は、2年連続で8部門にノミネートされたカニエ・ウェストだったのだけど、主要2部門を含んでいた昨年に比べ、今年はラップ関連部門の重複が多かったために注目度はそれほど高まっていなかった。そのカニエ・ウェストに代わって最も注目を浴びていたのは、主要4部門を含む6部門にノミネートされた英シンガー・ソングライターのエイミー・ワインハウス。破天荒な私生活から英国のゴシップクイーンとなっている彼女だけど、高い音楽性は音楽界の大御所たちが絶賛するほど。自らのアルコール依存症のリハビリ体験を題材にした「リハブ」は世界的にヒットしたのだ。
その評判通り、今回ノミネートされた6部門のうち年間最優秀レコード賞(「リハブ」)、年間最優秀楽曲賞(同)、最優秀新人賞、最優秀女性ポップボーカル賞(「リハブ」)、最優秀ポップボーカルアルバム賞(『バック・トゥ・ブラック』)を受賞。『バック・トゥ・ブラック』などを手がけたマーク・ロンソンも年間最優秀プロデューサー賞を受賞している。薬物関連での逮捕・事情聴取などが続くエイミー・ワインハウスは米政府から入国ビザの発給を拒否され、今回の授賞式にも出席できなかったのだけど、ロンドンからの衛星中継でステージを披露し、会場を熱狂の渦に巻き込んだようなのだ。
一方、年間最優秀アルバム賞を受賞してエイミー・ワインハウスの主要全4部門制覇を阻止したのは、ジャズの大御所であるハービー・ハンコックの『リヴァー〜ジョニ・ミッチェルへのオマージュ』。ジョニ・ミッチェルへのトリビュートアルバムとなっており、ジョニ・ミッチェル本人やウェイン・ショーター、デイヴ・ホランド、ノラ・ジョーンズ、コリーヌ・ベイリー・レイ、ティナ・ターナーなどがゲストで参加するなど、超豪華な作品となっている。
これまで10度にわたってグラモフォンを手にしてきたハービー・ハンコックだけど、主要部門受賞は初のこと。また、ジャズミュージシャンの同賞受賞は1964年のスタン・ゲッツ&ジョアン・ジルベルト以来43年ぶりなのだとか。同作は最優秀コンテンポラリージャズアルバム賞も受賞したほか、トリビュートされたジョニ・ミッチェル本人も復帰作『シャイン』に収録されているインスト曲「ワン・ウィーク・ラスト・サマー」で最優秀ポップインストゥルメンタル賞を受賞した。
また、カニエ・ウェストが最優秀ラップ楽曲賞(「グッド・ライフ」)、最優秀ラップアルバム賞(『グラデュエーション』)、最優秀ラップソロ賞(「ストロンガー」)、最優秀ラップデュオ・グループ賞(コモンの「サウスサイド」)の4賞、ブルース・スプリングスティーンが最優秀ソロロックボーカル賞(「レディオ・ノーウェア」)、最優秀ロックインストゥルメンタル賞(「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウエスト」)、最優秀ロック楽曲賞(「レディオ・ノーウェア」)の3賞を受賞。個人的には、ザ・ホワイト・ストライプスが最優秀ロックデュオ・グループ賞(「イッキー・サンプ」)と最優秀オルタナティブアルバム賞(『イッキー・サンプ』)を受賞したことがうれしかったのだ。
このほか、5部門の候補だったジャスティン・ティンバーレイク、フー・ファイターズ、ジェイ・Zはそれぞれ2賞、楽曲単独で主要2部門を含む3部門にノミネートされたリアーナfeat. ジェイ・Zの「アンブレラ」は最優秀ラップコラボレーション賞のみを受賞。また、米大統領選の民主党候補の座を争っているバラック・オバマ上院議員が最優秀朗読アルバム賞(『合衆国再生 大いなる希望を抱いて』)を獲得したのだけど、ニューエイジアルバム部門にノミネートされていた喜多郎の『空海の旅3』は惜しくも受賞を逃している。
◎第50回グラミー賞主要部門の結果
【年間最優秀レコード賞】
「リハブ」 エイミー・ワインハウス
【年間最優秀アルバム賞】
『リヴァー〜ジョニ・ミッチェルへのオマージュ』 ハービー・ハンコック
【年間最優秀楽曲賞】
「リハブ」 エイミー・ワインハウス
【年間最優秀新人賞】
エイミー・ワインハウス
※フルリストは
グラミー賞公式サイト(英文)参照。