「最後の職人」のはずが20人、TBS「ウルルン滞在記」に抗議殺到。

2007/10/28 16:57 Written by コジマ

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第二次世界大戦後、米英仏ソの4カ国に分割統治されたオーストリア・ウィーンを舞台とした1949年公開の英映画「第三の男」。親友の死に疑問を持った小説家が真相を究明していくというサスペンス映画なのだけど、ノーカットで撮影したといわれるラストシーンと音楽が印象的なのだ。映画と同名のテーマソング(「ハリー・ライムのテーマ」)はサッポロビール「ヱビスビール」のCM曲にも使われ、JR山手線恵比寿駅の発車メロディにも採用されるなど、日本でもなじみの深い楽曲となっている。

この曲や、挿入曲「カフェ・モーツァルト・ワルツ」で使われているのは、オーストリアやイタリア、スイス、ドイツなどのアルプス地方で有名なチター(ツィター)という弦楽器。映画で描かれている時代のウィーンでは酒場でこのチターがしょっちゅう演奏されていたらしく、ロケでウィーンを訪れていたキャロル・リード監督が酒場でチターを弾いていたアントン・カラスを見つけ、映画音楽の作曲を依頼したのだそう。

映画のヒットによってチターは一躍有名となり、骨董品屋さんに眠っていたものが高値で売れ出したほどのブームとなったのだとか。ローリング・ストーンズの天才的楽器奏者であるブライアン・ジョーンズも、ダルシマーの代用でチター(エレクトリック・チター)を演奏したことがあるのだ。しかし、他の民族楽器同様、現在は演奏者が減っているみたい。

このチターを取り上げたTBS系「世界ウルルン滞在記“ルネサンス”」が物議をかもしている。問題となっているのは、10月7日に放送された秋のスペシャル「特別編〜未来への記憶〜」のうち、歌手の大友康平がオーストリアの「最後のチター職人」を訪ねるという内容のもの。その自称「最後の職人」は、「いまは年間2、3台しか売れず、このままではチターは滅んでしまう」と語っていたのだ。

ところが、この放送を見た国内外のチターファンたちから、番組ホームページに問い合わせや抗議が殺到した。なんと、「最後の職人」のはずがほかに多数存在しているというのだ。産経新聞には、番組を見てチター消滅をはかなんだ大学教授のブログに寄せられた反論を紹介するとともに、日本チター協会の内藤敏子会長の「チター職人は現在、オーストリアに数人、ドイツと合わせて約20人はいるはずです」というコメントを掲載している。これらを合わせると、番組に登場した「最後の職人」はウソだったことになるのだ。

これに対し、TBS側(毎日放送)は「取材ではオーストリアには作れる職人はいるものの皆、作るのをやめていて、いまではペーター・ムルンゼアさんだけとのことだった。本人に確認すると『オーストリアで作っているのは私だけです』と言ったことから同国で最後の職人として取り上げた。ドイツに職人がいることは知っていた」(産経新聞より)としているのだけど、裏付けも取らないで本人の言うことを鵜呑みにしただけでなく、ドイツに職人がいるのを隠していたことになる。ぼくもこの放送を見ていたのだけど、この職人を最後にチターが消えてしまう恐れがあるということを信じてしまったのだ。

ぼくのように番組の内容を信じてチターが消えゆく楽器であると思っている人は多いようで、“チター滅亡論”を記しているブログが散見されるのだとか。TBSはこれまでも少なくない“捏造”が指摘されてきただけに、またもや世間からの厳しい目が向けられそうなのだ。

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