国境なき医師団、昨年の「報じられなかった人道的危機」を発表。

2007/02/02 12:36 Written by コジマ

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2006年も世界で起きたさまざまな出来事が報じられた。中東情勢、北朝鮮問題、インドネシア・ジャワ島中部地震――こうした出来事は各メディアの「2006年重大ニュース」に多く見られたのだけれど、世の中にはこれらのニュースと同程度の問題を抱えながらも、ほとんど報じられないものがある。そんな“メディアに黙殺された事件”を、国境なき医師団(MSF)が「2006年、10の最も報じられなかった人道的危機」として1月9日に発表、2月1日には東京・有楽町の日本外国特派員協会でMSF日本事務局長のエリック・ウアネス氏らが、記者会見を行ったのだ。

「10の最も報じられなかった人道的危機」は、MSFが毎年年始に発表しているもので、今年で9回目となる。おもにメディアの関心外となっている紛争や病気などによる犠牲を取り上げているのだけど、昨年の米3大ネットワークが夜のニュースの放送時間1万4512分のうち、今回のリストに上がっている問題を取り上げた時間はわずか7.2分。それも5つだけで、残りの5つは全く報道されなかったのだ。日本ではもっと少なかったのだそう。いかに世界の関心が低いかが浮き彫りになっている。

さて、その世界から“黙殺”されている10の出来事は、

1. 中央アフリカ――内戦による大量難民の発生
2. 結核――途上国における犠牲者の増加
3. チェチェン――長期にわたる紛争の影響
4. スリランカ――内戦の勃発、難民の増加と援助困難
5. 栄養失調――現在も6000万人以上の子供が死に直面
6. コンゴ民主共和国――半世紀ぶりの民主的選挙実施も暴力・貧困は解消せず
7. ソマリア――15年続く内戦と干ばつ、洪水による大打撃
8. コロンビア――いまだに絶えない内戦、難民、誘拐、虐殺
9. ハイチ――新政権発足も多発する暴力
10. インド――中部チャッティースガル州における武力衝突
(詳しくはMSF公式サイトを参照)

以前から問題となっているチェチェンやソマリア、コロンビア、昨年起きたスリランカの内戦はニュースを見かけたことはあるけど、こうしてみると、知らなかった出来事がけっこうあるのだ。結核患者の増加は日本でも起きていることなので、積極的に報道したほうがよさそうだけど……。

こうした出来事がなぜ“黙殺”されているのか、そしてぼくら一般人ができることはないか、ウアネス氏がNarinari.comのインタビューに答えてくれたのだ。

――なぜ報道されないのか
「日本で取り上げられる海外の報道は、例えばイラクやアフガニスタンのような規模が大きく政治的なものに集中してしまい、人道問題に関するニュースへの関心は高まっているとはいえまだ低い。世界的にもそうだが、政府の意向に沿った報道が多いのは否めず、日本は米国の政治的な視点でメディアが取り上げてしまうからではないだろうか」

――メディアはどうあるべきか
「本来ならつらい状況に置かれている人を報道すべきだが、実際は20年前から政治的介入によって荒廃した地域のことばかりを繰り返し取り上げている。人道問題にももっと目を向けることが、メディアやジャーナリストの責務だろう」

――われわれ一般人ができることはあるか
「一般の人が興味を持つことによって、メディアが取り上げやすくなる。世界で何が起きているのかを知り、話し合い、新たな情報をメディアに求めていくことでさらに世間の認知度が高まっていくと思う」

昨年、紆余曲折を経て日本でも公開された映画「ホテル・ルワンダ」によって、1990年代にルワンダで起きた内戦や虐殺が話題になったのだけど、ぼくら一人一人の意識の高まりが、マスコミの在り方を変え、ひいてはこうした内戦を未然に防ぐことになるのかもしれない。内戦に対する考え方はさまざまだけど、いずれにせよこうした現状を「知る」、そして「知らせる」ということはとても大切なことだと思うのだ。

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