ユダヤ教徒が週末に乳母車を使えない理由。

2005/04/10 12:09 Written by Maki K Wall@駐米特派員

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ウォール家が以前住んでいた家の周りは、セントルイスでも有名なユダヤ教徒の多く住む地区でありました。特に保守的なオーソドックス派の人々をよく見かけましたっけ。

これらのオーソドックスの男性たちは黒いスーツを身にまとい、フォーマルな黒いソフト(ホンブルグ?)ハット、又は「ヤマカ」と呼ばれる小さな帽子をかぶっています。とても独特な雰囲気です。長いヒゲを生やしている人も多いですね。女性の場合もどちらかと言うと落ち着いた色合いの洋服で、ロングスカートが定番。

そんな彼らの姿を見かけるのが、なぜかいつも週末に集中しています。近所をよく歩いている姿を目撃していたのですが、以前は単にウィークエンドを家族で散歩をしつつ楽しんでいるのかと思っていました。でも実はこれ、ユダヤの教えにそった宗教的な意味合いがあるのだと最近知ったのです。

「サバス」と呼ばれるユダヤ教の安息日は、毎週金曜日の日没から翌土曜日の日没までと決められています。この日は完全な休息日でなくてはならず、一切の労働を禁止されているそうです。この「労働一切」とは、例えば物を持ち運んだり、道具を使ったりすることが全部禁止だという厳しいもの。家の中ではそれらをしても構わないらしいですが、公の場では、まずご法度。

これが何を意味するかというと、まず車の運転が出来ません。それゆえユダヤ教徒の人々が土曜日の日中どこかに行く場合は、徒歩しかオプションがないのです。車社会で、歩き回っている人をほとんど見かけないアメリカでは本当に珍しい存在です(笑)。

そしてなんとサバスの間は、ポケットに鍵が入った状態で出歩いてもいけないし、ベビーカーを動かすことも「労働」と見なされてしまうのだとか。多くのオーソドックス・ユダヤ教徒は今でもこの決まりにそった生活を厳守しているそうで、本当に信心深いんだなと感心してしまいます。

ところでこの安息の日の間でも「エラブ」と呼ばれるユダヤ地区の境界内では、先のような厳しい決まりがいくつか免除されるのだとか。この区域から出なければ、それなりに不自由でない週末を送ることが出来るらしいです。乳母車も使えます。

そういえば、先日のセントルイスの地方新聞にこのエラブについて面白い記事が掲載されていました。この境界線はそのコミュニティに住むラビ(ユダヤ教の聖職者)が、その住宅街のフェンスや電柱などを目印に作成します。さらにエラブは、そのユダヤ地区全体をぐるりと囲んでいなければなりません。でもこれらの目印となる電柱などが壊れてしまった場合、そのシンボル的な境界線も壊れることになり、エラブとしての「効力」が無くなってしまうのです。そうなるとサバスの期間は、先に説明したような制限が課せられることに……。

ということでユダヤ地区では、この境界線チェックはラビの大切な仕事のひとつ。彼らが境界線を歩き周り、毎週のように管理されているんですって。なんだか興味深い話ですね。

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