「イラクがニジェールからウランを輸入して核兵器を開発した」「イラク軍は、45分以内に生物・化学兵器を実戦で使える」―これはイラク戦争の開戦理由である。この証拠文章が見つかったとして、ブレア英首相はブッシュ米大統領よりも強硬にイラク戦争の必要性を主張していたのだ。
しかし、いくら経っても現地で物証が出てこないし、「そんなもん最初っからなかったんじゃねーの?」という声が全世界で上がっていたときに、「英政府が情報機関の抵抗を抑え、この情報を公表した」とBBCで報道された。この報道でブレア政権はピンチに陥り、情報をBBCにリークした人間を世間に暴露した。その人物が、英国防省顧問で大量破壊兵器の専門家のデビッド・ケリー博士なのだ。
国内はおろか世界で批判の嵐に遭い、米国には「英国の情報機関がもたらしたものだから、英政府に責任がある」と見放された英政府は、ケリー博士を議会で証人喚問し、議員たちの罵倒の対象にしてしまった。そして7月18日、訪米していたブレア首相がワシントンから東京に向かっている途中、ケリー博士は自殺してしまったのだ。
東京に着いてからのブレア首相の顔面蒼白ぶりは記憶に新しい(言葉なめらかな首相が記者の質問に絶句してしまった)けど、実際、博士を死に追いやった原因は何か。直接的には、「売国奴」として博士の名前をマスコミにリークしたことではないかと言われている。これはフーン英国防相が部下の反対を押し切って行ったことで、同国防相が友人との電話で語ったように、博士の自殺により、彼の政治生命は終わってしまったのだ。
このリークの過程で頻繁に首相官邸と連絡を取り合ったことが、18日のティア国防省広報部長の証言によって明らかになった。今後の焦点は、官邸がどこまで関与していたかということで、現在、証言を求められているブレア首相の側近、キャンベル報道・戦略局長の発言が注目されるのだ。
しかし、ケリー博士は政争の渦中にあったため、(ブレア首相やフーン国防相を陥れるための)他殺や自殺教唆などの説もある。ブレア首相が東京で見せたあの表情からすると、首相も一枚噛んでいる可能性もあり、今後の動きから目が離せないのだ。