愛しのたくましマッスルカー その2。

2003/05/13 04:48 Written by コジマ

このエントリーをはてなブックマークに追加


アメリカ車が世界一だった頃を象徴するマッスルカー。ぼくのマスタングは1965年製だから、マニュアル車だろうと思われがちなのだけれど、純正のオートマチック車。ハンドルだってパワステ(ハンドル操作を油圧で補助して軽くするもの)なのです。当時のアメリカでは「軽ければ軽いほどいい」という風潮があったらしく、現代のクルマより軽いくらい。さて、ぼくのところに来て2日経ったマスタング、今度はそのパワステがおかしくなったのだ。

その日は野球の試合があって、東京都大田区にある多摩川河川敷の六郷土手野球場に出掛けた。六郷土手野球場にはちゃんとした駐車場があるのだが、すぐにいっぱいになってしまうので、駐車場に入れなかった人はグランドとグランドの間にある道(六郷土手はグランドが14面あって、2列に並んだ球場の間に道が通っている)の脇に止めている。ぼくも多分に漏れず脇に駐車したのだけれど、友達から「あー、こりゃ打球が飛んで来るな」「うん、当たるね。ファールでベッコリだ。ウシシシシ」と脅されたので、なるべく試合会場の近くにと、一番奥のほうに止めたのだ。これが悲劇の始まりだった。

試合は相手が来なかったために不戦勝。大会2回戦進出を決める。グランドが空いたので急遽練習試合組んで、快勝。午後1時に終わったのだけれど、ぼくはその日2時から仕事があったので、友達への挨拶もそこそこにユニホーム姿のままマスタングに乗り込む。エンジンをかけて出発してしばらく行くと、向こうからクルマが来るではないか。

グランドとグランドの間の道は一応2車線あるのだが、脇への駐車がみんな乱雑なため、軽自動車ならまだしも普通車ではほとんどすれ違えない状況になっている。いわんやマスタングの横幅はぼくの身長とほとんど同じの176センチ。すれ違えるワケがない。しかし、退がって退避しようにもクルマを入れてすれ違える場所がない。さらにぼくの後ろにはドデカイ「アストロ」というワンボックスのアメ車(他人)がいるではないか。前から来るのは中くらいの大きさのファミリアワゴン。しかし、その後ろには3台いる。こちらはクルマはデカイが2台しかいない。しばらくニラミ合いが続いたが、数の多寡に負け、こちらが退がることになった。

まず、アストロが退がり、自分がもともと入っていたところに退避する。ぼくは不慣れなマスタングを操りバックするが、ヨボヨボとおぼつかない。友達が飛んできて「コレ(マスタング)なげーんだよ!」「こんなクルマ乗るなバカ」と文句を言いながらも誘導してくれたのだ。なんとかギリギリで退避できるを見つけてそこに入れようとしたとき、「う、重い」。ハンドルがメチャクチャ重くなった。前日からハンドルを回すと「ぐるぐるぐる」というオナカを下したような音(ビビリ音というそう)がして「おかしいな」とは思っていたのだけれど、ここへきてその音は大きくなり、ハンドルがとんでもなく重くなったのだ。

折りしも春とは思えぬ炎天下だったので、ぼくは汗だくになりながら右へ左へハンドルを切った。なんとか退避場所に入れられたときには、サウナに30分入ったくらいの汗と筋トレを1時間くらいしたほどの筋肉の張りをおぼえたのだ。友達だけでなくぜんぜん関係ない人たちまで誘導してくれたので、みんなにお礼を述べつつ、ふと時間を見ると、なんと1時30分。30分だと高速道路に乗って間に合うかどうかの時間である。高速に乗って急いで会社に向かった。

普通に走ってるときはハンドルは軽い。このクルマは、きっとある程度速度を出してないと重ステになるのだな、と自分で納得した。そして、高速を走ってるときにハタと思いついた、「マッスルカーとは、クルマがマッスルなだけでなく、乗っている人間にもマッスルさが要求されるのか!」と。しかし、それは間違った認識だと、クルマ屋さんとの電話ですぐにわかった。

「いやあ、今日はビックリしましたよ。これはブル・ワーカーより効果的に鍛えられますね。2か月でたくましマッスルになりますよ。あははは」
「あ、それ、パワステフルードが切れてるんですよ」
「え? 何ですかそれ」
「パワステを動かす油が切れてるんですね。ホームセンターで売ってるんで補充してください」
「止まってると重ステになるんじゃないんですか?」
「そんなクルマないですよ。わっはっは」

仕事が終わると急いでドンキホーテに行ってパワステフルードを買い、口で説明されても給油口がわからなかったのでガソリンスタンドで訊いて入れてみると、あらあら不思議あらフシギ。止まっていてもハンドルがかる〜くなった。「パワステの油はなくなるものなのだな。ひとつ勉強になったぞ」と、かいた恥を忘れてあくまで前向きに捉えようとした。ところがドッコイ、次の週に最大のピンチを迎えることになる。

つづく

TOPへ戻る
このエントリーをはてなブックマークに追加

Copyright © Narinari.com. All rights reserved.