1960年代に「ウォール・オブ・サウンド」という録音方法でビートルズなどをプロデュースし、グラミー賞を2度受賞した音楽プロデューサーのフィル・スペクター氏が、米アルハンブラ(ロサンゼルス郊外)にある同氏の邸宅で発見された女性の射殺体に関する殺人容疑で逮捕された。女性の身元はわかっていない。
そういえばそんな人いたなあといった感じである。ビートルズ以外にもクリスタルズ、ライチャス・ブラザーズ、ロネッツ、ジョン・レノン、ジョージ・ハリスンなどをプロデュースした。ハーヴェイ・フィリップという本名を嫌悪し、自らフィルと名乗り出したそうな。そのことからもわかるように、同氏はどうも昔から精神的にちょっとイっちゃってた傾向があったらしく、今回もその辺が関与してるような気がする。
ぼくがフィル・スペクターを知ったのは、中学3年生のときにNHK FMで放送された「オールデイ・ザ・ビートルズ」という、ジョン・レノン没後10年を記念した20時間特別番組のなかだった。ロッキング・オンを立ち上げた音楽評論家の渋谷陽一氏が20時間ぶっとおしでパーソナリティーを務め、ビートルズだけでなくメンバーのソロ活動などを追ったさまざまなプログラムが放送されていたのだ。当時ぼくは受験生だったので、母親に「オレは塾行くんだもんね。全部テープに録っておいてちょーだい!」と頼み、翌日からはウォークマンでそれこそテープがすりきれるまで繰り返し聴いた。
そのなかで、アルバム「LET IT BE」に収められている「Across The Universe」という曲の別バージョン(というかオリジナル)を初めて聴き、アルバムに収められているほうはフィル・スペクターの「ウォール・オブ・サウンド」という手法でつくられていることを知った。「ウォール・オブ・サウンド」とは、テープでダビングを重ねていき音に厚みをつける(同曲の場合は逆回転のテープまで使っている!)手法で、原曲がわからないほどものすごく加工してあるため賛否両論だったそうな。今では使っている人が多すぎて枚挙の暇がないほど(日本人だと山下達郎なんかその最たるものらしい)である。番組内で渋谷氏が辛辣なコメントをしてたので、純情だったぼくは「そうか、コイツはダメなヤツなんだな」と洗脳されていた。ぼくにとってフィル・スペクターとは、名前を聞くとそんな中学3年の頃を思い出す程度の存在なのかもしれない。