ロサンゼルス・タイムズや米放送局ABCによると、べセルの住民たちをがっかりさせる噂話が流れたのは、今年6月初め頃のこと。「タコスを中心とするメキシコ料理で人気のチェーン店タコベルが7月4日にベセルに新店舗をオープン予定。スタッフ募集」という内容の広告を掲載したウェブサイトやチラシを住民たちが見つけ、街で大きな話題になった。というのも、陸の孤島であるべセルにあるチェーン店は、現在のところサブウェイだけ。マクドナルドやタコベルなど、ほかの人気チェーン店に行きたいと思ったら、旅費を払ってアンカレッジに出るしかなかった。それが街にいながらにしてタコベルを食べられるようになると知り、多くの住民たちは7月4日を心待ちにしたという。
しかし出店話が広がるに連れ、徐々におかしな点も明らかになっていった。確認した商工会議所の職員が、スタッフ募集広告が掲載されたサイト上に「コンタクトを取るための情報が一切なかった」と不審感を抱き、さらに連絡先として記されていた電話番号は一般家庭で使用されていたものと判明。電話番号を勝手に使われた家には実際に多くの問い合わせが寄せられる事態となり、困った住民が商工会議所に相談していたそうだ。
そして6月中旬、地元ラジオ局が話の真偽を確かめるために直接タコベルの運営会社に連絡を取り、結果、べセル出店を伝えるウェブサイトはいたずらと分かった。待望の人気チェーン店出店を信じ「興奮していた」住民たちは、ラジオ局の報道を知って皆がっくり。結局、出店を伝えるウェブサイトは「2人の地元住民」(米紙アラスカ・ディスパッチより)の仕業と明らかになり、べセルで思う存分タコベルを味わえる日はやはり来ない……かと思われた。
ところがこの話題が米メディアで大きく取り上げられ、タコベル経営陣もべセルの住民たちが抱いた気持ちを知ることに。すると、同社のグレッグ・クリードCEOが「アフガニスタンやイラクで提供できるのだから、べセルでも可能」と語り、1日限定でべセルの住民たちにタコベルの料理を無料で振る舞うと発表した。用意されたのは1万食のタコス。住民のほとんどがお代わりできるほどの量だった。
迎えた7月1日、タコベルは会場となる文化センターへトラックをヘリで輸送し、午後1時から提供を開始。YouTube上には、トラックが到着するシーンを収めた「The Taco Bell Hoax in Bethel, Alaska - Above and Beyond Delivery」(http://www.youtube.com/watch?v=-wGjR-cGnXM)や、住民たちが詰めかけている「Large Rushing Crowd at the Taco Bell Hoax in Bethel, Alaska」(http://www.youtube.com/watch?v=WvFTqgYsbuQ)という動画が投稿され、いずれも聞こえてくる声から喜んでいる様子が分かる。
年に数回口にすれば良いほうというべセルの住民たちにとって、地元で食べられたタコスはきっと忘れられない味だったはず。たとえ今後も出店計画がないとしても、タコベルを愛するファンは確実にべセルで増えたのではないだろうか。