ボストンでディーラーをしているスコット・ウィルソン氏は、その昔、ゴミ集積場にあった1枚の油絵を発見した。その絵は花畑の中で赤い椅子に座って足を組む、1人の老婆と思しき人物を描いた作品。米紙ボストン・グローブによると、ウィルソン氏は当初その作品を売るつもりだったそうだが、友人は彼に「持っているべきだ」と進言され、これをきっかけに「Museum of Bad Art(MOBA)」の設立を決意し、友人宅の地下スペースを借りて1994年に展示を開始した。
その後、ほかの作品も順調に集まってスペースが手狭になったこともあり、「地下を自由に使って良いと、気前よく貸してくれた」(MOBA公式サイトより)という、ボストン郊外のデッダム・コミュニティーシアターに移転。現在はマサチューセッツ州サマービルにもギャラリーが開設され、「約400のコレクションの中から、一度に30から40の作品を展示」しているという。
そんな作品の数々の一部は、MOBA公式サイトで見ることができる。「コレクション」のページの中には上手な絵に見えるモノもあるが、ほとんどは素人が見ても奇妙に感じる作品だ。
当然「駄作を集めることに何の意味があるのか」と、ほとんどの人が思うところだろう。実際、メディアや専門家からは、美術館の存在価値を否定されることも少なくないらしい。そうした批判に対して、美術館側は収集している作品は「単なる不完全なものから、何かしら“特別”なものもある」と主張。そして、たとえそれが駄作であろうと、製作者が辛抱強く完成させた作品に対する敬意を示すという意味もあるようだ。そのため、収集する際にもそうした“特別”なものを感じる作品を選別するようにしているという。
こうした「駄作の数々」を集めた美術館の存在は芸術的に無価値であっても、その方面に興味のない人に、小難しいことを考えずに「どれだけ酷いのか」と興味を引かせるという、逆の意味で芸術への入り口となるのかも? 普段は美術館に縁遠い人も、公式サイト(http://www.museumofbadart.org/)で紹介されている作品をご覧になってみてはいかがだろうか。