2006年のフジテレビ撤退の影響で、昨年10月に新会社の一方的な通知で解散してしまった格闘技イベントPRIDE。すでに多くの有名選手が他団体へ流出していたことから、解散前の時点でイベントとして成立しない状態になっていた。ファンとしては悲しい出来事だったのだ。

そんな中、旧PRIDEスタッフが米格闘技団体M-1 GLOBALの支援を受けて格闘技イベント「やれんのか! 大晦日! 2007」を昨年大晦日に開催したのはご存じのとおり。以前は犬猿の仲だったK-1の主催者FEGとも協力して、エメリヤーエンコ・ヒョードル選手対チェ・ホンマン選手、瀧本誠選手対ムリーロ・ブスタマンチ選手などのカードが行われた。青木真也選手と対戦する予定だったJ・Z・カルバンが欠場したのは残念だったけど、FEG主催の「K-1 PREMIUM Dynamite!!」内で中継も行われ、久々に日本の大晦日を熱くさせてくれたのだ。

そのカードの中で、最も注目されたのが第5試合の三崎和雄選手対秋山成勲選手。秋山選手は前年のいわゆる「ヌルヌル事件」のせいで客席からブーイングを浴び、こうしたファンの期待どおりに三崎選手が1回8分12秒でKO勝ちをおさめたのだ。

ところがこの試合、勝負を決めた三崎選手の蹴りが、立ち上がる秋山選手に放たれたことで疑義が呈されていた。両手、両膝をついた体勢の「四点ポジション」への攻撃はPRIDEでは基本的にルールの範囲内だったのだけど、今回の「やれんのか!」では禁止となっており、三崎選手の蹴りがルールに抵触するのではないかという議論が紛糾したのだ。

開催者側でも意見は分裂していて、FEGの谷川貞治イベントプロデューサーは「あれは反則ですね。ビデオで確認しましたが、蹴られて体が起き上がっている。秋山君は昨年の反則事件(06年大みそかの桜庭戦)の張本人だけに遠慮しているのかもしれないが、きちんと(主催者に)提訴すべきです」(スポーツ報知より)としていたのだけど、やれんのか!実行委員会は「厳密には4点ではなかった」「立ち上がった直後ではあったが三崎の攻撃は一連の流れの中でのものだった」(デイリースポーツより)と反論していた。

また、やれんのか!の高田延彦統括本部長は、自身のブログで「『あれは四点ポジションのキックだ!』と論ずるのは、あまりにも無理があると考える」「三崎は断じて禁止行為に触れてはいず、堂々とした見事な、一点の曇りもない勝利と確信する。いずれにしても、神聖なるこの二人の戦いに余計な味噌をつけてもらいたくない」(1月5日付)と強い口調で非難し、島田裕二ルールディレクターも「抗議文をまだ見ていないが、個人的には三崎の蹴りは問題ないと確信している」(サンケイスポーツより)と語っていたのだ。

しかし、1月16日に秋山選手側が判定を不服として、主催者に提訴。また、三崎選手が試合後に「日本人は強いんです!」と発言したことで、秋山選手が韓国系であることから韓国国内では三崎選手に対する反感が噴出するという事態に発展してしまった。

こうした背景が絡んでいるのか、島田ルールディレクターらが協議した結果、ルールに抵触していると判断してノーコンテスト(無効試合)という判断が下され、やれんのか!実行委員会も無効試合にすることを決定したのだ。

島田ルールディレクターは「三崎選手の蹴りに対しては反則とも反則でないとも取れます。一連の攻撃の流れで起きた行為ですので、非常に判断が難しいと言わざるえません」(やれんのか!公式サイトより)とした上で、「ルール会議において選手及びセコンドには『本イベントは、旧PRIDEルールとは全く違う禁止行為のあるルールですので必ず気を付けてください、そして疑わしきは罰します』と通達していました。そうした意味においては選手サイドのルールの把握の乏しさも認識されます。これにより、三崎選手の明らかに四点ポジションにいる選手を蹴りに行く行為自体は、ルールに抵触していると判断せざるえません」(同)としている。なんだかスッキリしない裁定なのだ。

島田ルールディレクターは「本イベントは継続的なイベントではないため、これを受けて再試合を組むことを約束するものではありません」(同)と述べているのだけど、6月に開催予定の「Dynamite! 韓国大会」で再戦することもささやかれている。そうなると、一転して三崎選手がアウエーのような状態になりそう。

ぼくも試合を見ていたのだけど、高田統括本部長が言うとおり、秋山選手の体勢が「四点ポジション」とは言い難い状況だったのは誰の目にも明らかだと思う。多くのファンが納得できない裁定は今後の格闘技人気を衰退させそうで、なんとも残念なのだ。
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