そんな劇団ひとりが最近、初めての小説を書いたというなり。幻冬舎から発売された「陰日向に咲く」がそれで、ニッカンスポーツによると「専門家筋から予想外の高評価を受けている」のだとか。内容はホームレスを切望するサラリーマン、老婆を騙そうとする小心ギャンブラー、年増アイドルを応援するオタク青年など、落ちこぼれたちの純真で哀しい姿を描いたもので、短編5作で構成されているなりね。
お笑い芸人が片手間に書いた小説……というわけではなく、中身はなかなか本格的なようで、帯には著名な作家からは褒め言葉が飛び交っているなりよ。例えば「ビギナーズラックにしてはうますぎる」(恩田陸)、「こんなに笑えて胸が熱くなって、人間が恋しくなる小説に出会ったのは何年ぶりか」(山田宗樹)、「お笑いブームなどはるかに飛び越えた才能」(大槻ケンヂ)などなど。
また、アマゾンのユーザーレビューも、8人のレビュワーが全員満点を付けているなど、ビックリするような評価がズラリ。「とにかく一言で言えば抜群に面白い小説なのだ」「一人の作家のデビュー作として、これは大いに評価されるべき作品である」「才能のある人だなあと、しみじみと感じます」などなど。まさに手放しに絶賛状態なり(笑)。
この「陰日向に咲く」やお笑い芸人としての部分について、劇団ひとりがニッカンスポーツのインタビューに答えているなりよ。なかなか面白い内容だったので少し見ておくことにするなりね。
「オタク青年の話は、ラジオの収録中に見た光景がきっかけ。その時アシスタントをしていたアイドルのファンが観客の中に何人かいて、真冬の雨ってすっげえ冷たいのに、傘さして夜中まで4時間ずっとニコニコ聞いてるんですよ。そのアイドルがセックスさせてくれるならおれだって4時間くらい並ぶけど、何の報酬もないのに。これも純愛だと」
「活字はコントと違って顔や体の動き、声の緊張感などで表現できない。『チクショー』1つにいちいち説明つけなきゃいけなくて、難しかったですね。話を考えるのはつらかったけど、1人で書く作業は単独ライブみたいで楽しかった」
「弱い人間なんですよ。自己啓発本を読むというより、処方するという感じ。読んでお風呂入って冷たいポカリとか飲んで満足。1晩読むだけで、心にあったぐちゃっとしたものがどこかにいって『よし、生きよう』って(笑)」
父親は国際線パイロット、母親はスチュワーデスというネタのような両親から生まれたのは有名な話なりが、アラスカ在住時(小学校2〜5年まで)には天才児扱いだったのに、帰国後は勉強についていけずに不良となり、工業高校を中退。定時制に通っていたなど、結構苦労をしている人なりね。そうしたこれまでの苦労が随所に小説にもにじみ出ているようで、屈折した人々の生き様が見事に表現されているようなりよ。
お笑い芸人、役者、そして小説家。活躍の場を広げる劇団ひとりの多才ぶりには脱帽なりが、これからのますますの活躍に期待したいものなり。