普通ならば世の非難を浴びるはずの強盗だが、「出来心」や「締め込み」などの落語に登場するのは、思わず脱力してしまう間抜けな泥棒ばかり。そんな泥棒噺に登場するような、英国のある強盗犯が、ちょっとした話題となっている。英メディアからは「最もバカな強盗」と評され、被害者すらも「最も不運な強盗」と同情する有様だ。

今年3月27日早朝、英トーキーに住むタクシー運転手のドン・スミスさん宅に、18歳のジェーク・オームロッドが強盗に押し入った。当時スミスさんは仕事のため不在で、自宅ではスミスさんの恋人、バル・トムソンさんが2階で読書をしていた。しかしバルさんは物音に気付いたものの、スミスさんが帰宅したと思って特に気にしなかったという。

犯人は、スミスさんのケータイとノートパソコン、トムソンさんの自動車の鍵を奪い、そのままトムソンさんの車で逃走。同時に車に置いていた荷物も盗んだ。幸い犯人と接触しなかったトムソンさんにケガはなく、盗まれた自動車もすぐに近くの通りで乗り捨てられているのが発見された。犯人はここまでの行動が成功し、意気揚々となったようだ。ところが翌日、そんな油断から盗んだケータイを使ったのが命取りになってしまう。

犯人はスミスさんのケータイを使ってタクシーの手配をしたのだが、電話した先はスミスさんが勤務する会社。スミスさんは同僚たちに強盗被害に遭ったことを話していたため、電話を受けた社員はスミスさんのケータイ番号からであることに気付くと本人に知らせた。まさか犯人がかけてきたとは思わないスミスさんはケータイが戻ってきたのかと、自宅に電話したという。

しかし、ケータイは盗まれたまま。そこで警察に通報する一方で、犯人には「すぐにタクシーを手配します」と連絡。自宅前で何食わぬ顔で待っていた犯人の前にパトカーが現れ、そのまま御用となった。

犯人は、強盗や車と車内にあった荷物の窃盗のほか、4.87ポンド（約770円）の妊娠検査キットを万引きした罪に問われており、保護観察下で保釈が認められたが、英メディアは「最低でも18カ月の懲役刑が科される」と予測している。判決は7月20日に下される見込みだ。

何ともあっけないスピード解決となった事件に、トムソンさんは「この街に何十ものタクシー会社がある中で、こうして捕まえられたのは100万分の1くらいの可能性」（英紙デイリー・テレグラフより）とコメント。スミスさんも、英紙デイリー・ミラーに対し「犯人が私の会社に電話してきたのは、偶然の一致」とし、愚かな行動で捕まったと非難しつつ、「彼は世界で最も不運な強盗に違いない」と述べている。