マンガ「イキガミ」は盗作? 星新一の娘が筒井康隆に悩みを告白。

2008/09/12 23:55 Written by Narinari.com編集部

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国民に「生きること」の価値を再認識させるため、18歳から24歳の若者を対象に、約1,000分の1の確率で国から配達される死亡予告書「逝紙(いきがみ)」。この「逝紙」が届いた若者に残された時間は丸1日、最後の24時間をどう過ごすのか、そして若者の家族や恋人はどうやって死を受け入れるのか……。「死」という終末を目前に突きつけられた人間の悲喜こもごもを描いた作品が、現在「ビッグコミックスピリッツ」に連載中(「週刊ヤングサンデー」から移籍)のマンガ「イキガミ」(作:間瀬元朗)だ。松田翔太主演で映画化され、9月27日からは全国公開が予定されているが、そのタイミングに合わせるかのように、以前から一部で話題を呼んでいた「盗作疑惑」が注目を浴びている。

「盗作疑惑」の話を進める前に、「イキガミ」の設定について確認しておこう。同作に登場する架空の国家では、国家繁栄維持法なる法律にもとづき、小学校入学と同時に全国民が「国繁予防接種」を受ける。予防接種によって体内には約0.1%の確率で体内で破裂するナノカプセルが埋め込まれ、不運にもその対象に選ばれてしまった人間が18歳から24歳になったときに配達されるのが「逝紙」……というのが大まかな設定だ。物語では「逝紙」を受け取った当事者の人間模様だけでなく、「逝紙」を配達することへの苦悩と葛藤を続ける配達人の心情も描かれており、「死」を深く考えさせられるストーリーが繰り広げられていく。

「盗作疑惑」に該当するのは、大まかな設定の部分。細かな設定は異なるものの、星新一の「生活維持省」に内容が酷似しているという指摘だ。「生活維持省」は平和な世界を維持するには人口を増やさず、生存競争を回避する必要があるとの理由から生活維持省が設置され、無作為に抽出された人間を殺していく……というストーリー。「国が国民を殺す」「国民は自分が選ばれることを知らない」「目的は国の維持」「役人が直接死を宣告しにいく」「死を宣告された人物の家族が狼狽」などの物語の根幹をなす設定が確かに似ているようだ。ちなみに「生活維持省」は、4月21日にNHKの番組「星新一 ショートショート」内でアニメ作品として放送されている。

これまでネットでは「イキガミ」読者の「『生活維持省』を連想した」「元ネタは『生活維持省』」といった掲示板への書き込みやブログでのコメントがチラホラと見られていたが、それほど大きな問題にはなっていなかった。ところが9月10日、作家の筒井康隆が更新したブログの記述をきっかけに、この「盗作疑惑」がスポットライトを浴びることになる。

「星新一のお嬢さんの星マリナさんからメールが来た。星新一公式サイトのために書いた思い出話の礼状である。マリナさん、盗作問題で頭を痛めているらしい。小学館から出た間瀬元朗の『イキガミ』という漫画が星さんの『生活維持省』に酷似していて、しかもそれが今度は映画になるらしいのである。なんとかしてあげたいが、問題の『イキガミ』という漫画を見ていないので、何とも言えないのは残念なことだ。マリナさん、父君の著作権を守るため、老齢のお母さんにかわって努力している。感心なことである」(筒井康隆のブログより)

この筒井康隆のブログを見た人からは「盗作だ」「パクリ」と、「イキガミ」を非難する声も上がっている。しかしながら、著作権で保護されているのはあくまでも「特定の表現」の部分であり、アイデアや大まかな設定(あらすじ)は保護の対象とはならないため、ネットでは星マリナさんの気持ちは分かるものの、現実的にこれを「盗作」とするのは難しいのではないか、との冷静な意見が多いようだ。

現時点では訴訟が起こされているわけではないが、筒井康隆のブログによって星さん側が「イキガミ」を快く思っていないことが明らかになっただけに、今後、どのような着地点を見ることになるのか。注目しておきたいところだ。

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